真夏の夜のあなたへ~私の体験した怖い話~
実話なので、そこまで怖くはないかもしれません。
でも体験した私からしたら、思い出すたびに鳥肌が・・・
そんなお話を今日は一つ。
夏の夜に、ひっそり読んでください。
憑いてるあの子
高校を卒業後、私は東京の専門学校へ通いました。
目指すは『パタンナー』。最終的にはデザイナー。
なので、東京である必要があったのです。当時は。
でも結局、家庭の事情で東京で就職することはなく、卒業後はまた実家へ。
こちらでアパレル関係の仕事に就きました。
その職場に、中途入社で入ってきたミサコ(仮名)のお話。
何と言えばいいのか、ひと目で「どこかがおかしい」と思わせるようなオーラをまとった子で、それは何も感じない人にも伝わるのか、会社ではやや孤立しているような子でした。
何がおかしかったのか、今考えても分かりません。
敢えて言えば「目」かな、、
見た感じは、小柄で細身で可愛らしい顔立ちなのに、目が怖い。
目つきが悪いとか人を睨むとかではなくて、目に表情がないのです。
ただ、そこにないといけないから「あるだけなんです」というような目。
でも、話してみれば悪い子じゃないし、話し方も穏やかで頭も良い、私は数少ない彼女の話し相手になっていました。
仕事終わりにお茶したり、軽く食事したり(当時は呑めませんでした 笑)、
細々とですが付き合うなかで、やはり女子なので怖い話とかするわけなんですよ。
決まって彼女がこの話題をふってきて、決まって「私には何か憑いてるかもしれない」という結論になるお話。
本当に憑いてるかも…と私も思いましたが、そんなこと言えないし、
その頃には慣れてしまっていて、彼女の目もあまり怖いとは思わなくなっていたので、あたりさわりなくその話題を終える、という感じだったのです。
そんなある日、ミサコに誘われていつものように食事へ。
「私もう我慢できない。お祓いに行きたいからこの後付き合ってくれない?」
と言われたのです。
彼女のプライベートは確かにトラブル続きでした。女性として辛いことも何度もあったようです。まだ若かったのに。
いつもなら、いえ、相手が他の子なら二つ返事でOKするところ
その時は私の本能が赤信号を激しく点滅、絶対に行ってはいけないと伝えてくるのです。
そうでなくても、本当に行きたくありませんでした。
やんわり断っても、直球で断っても、その日のミサコのしつこさは半端ない。
何もしなくていい。ただそばに居るだけでいいから。〇〇に住んでる優しい先生だから、文月の悩みの分も、何だったら私が出すから、と必死で食い下がってくるのです。
もう最後にはどうでもよくなってしまって、どうせ行くのなら早く終わらせた方がいいと、ようやく私は同行することを決めました。
街からタクシーで20分ほどの町、
春には街路樹の桜が満開になって、トンネルのようになる長い道を登りきったところに、その先生の家はありました。
桜は咲いていなかったけど、厚着もしていなかった記憶があるので、6月か、それとも10月頃か。
先生の家に着き、通された部屋は8畳ほどの和室。入って左手に床の間があり、そこには掛け軸が下がっています。
その掛け軸の前に大きな座卓、掛け軸を背に先生は座っていました。
右手は襖だったので、その奥にも部屋があったのかもしれません。正面は窓で、カーテンがかかっていました。
先生と向かい合って座る私達。
見た目は普通のおばさんでした。道ですれ違っても印象に残らないような普通の。
初めましての挨拶をして、ミサコは早速本題に入ります。
話す内容は、私も知っている内容から初めて聞くような内容まで。
話すうちに興奮してくるので、何度か先生にやんわりなだめられていました。
先生の受け答えは普通で、本当にミサコが言うほど霊能力があるのは不明。
とにかく、早く終わらせて帰りたかったので、私はじっと座るだけでした。
でもミサコの話が終わらない。
それ本当なの!?というような話まで始めてしまいます。
いつもそばに何かがいる・いつも相手が必死だから付き合うのに、付き合うとすぐ手酷く振られる、という話から、ちょっとここでは書けないような酷いことまで。
それを上手に聞いて上手になだめるのは、先生の霊能力のせいか年の功のせいか、それも不明。
結局、毎回ミサコのパワーが勝つようで、先生も少し押され気味。
最後は涙を流しながら、ミサコはヒステリックになってしまいました。
そして突然おとずれた沈黙。
流石にミサコも疲れたかな…?そう思ってミサコを見、先生を見ると
何かが視界の端を横切ったような気がします。
ん?もう一度先生とその周りを見ても何もありません。
来た時と同じ、大きな座卓、目の前の先生、その後ろに掛け軸。
違和感を感じて掛け軸を見ていると、掛け軸が少し揺れたような気が…。
「先生、窓開いていますか?」
風で揺れたのかと思い聞くと、窓は開いていないとのこと。カーテンが揺れていないので窓は閉まってるのでしょう。
でもその間にも掛け軸は、横に振り子のように小さく揺れています。
ミサコは気付いていません。先生も、こちらを向いているので気付いていません。
「掛け軸が揺れています」
低く素早く、私は先生に伝えました。大きな声で言うと何かに気付かれそうな気がして。
もうその時には、例え風が吹いていてもこうはならないだろうという程、掛け軸は大きく左右に揺れていました。そのうち、留めている釘(?)から外れて飛んでいくんじゃないかというくらい。
振り返ってそれを見た先生、どうするか、何を言うか、そんな時でも好奇心丸出しの私は先生を注視。不思議と怖くはありませんでした。
先生は、ただ固まっているだけでした。
斜め後ろ45度くらいの角度から見ているので、どんな表情かは分かりません。
でも、顎が下がっているので口をぽかんと開けているのでしょう、ただただ固まっているのです。
そしてミサコは。
それに気付いているはずなのに、全く反応を示さず、微動だにせず、能面のように無表情。
その瞬間、私は怖くて怖くてたまらなくなったのです。
関わるんじゃなかった。やっぱりミサコはどこかおかしかった。
そしてまた、ミサコは話し始めます。
さっきまでのヒステリックな感じではなく、ブツブツと絶え間ない念仏のように、自分の身に起きた不幸を話すのです。能面のような顔のまま。
「もう帰ります!先生、タクシー呼んでください」
たまらず私は声をあげました。
話を遮られたからか、先に帰ると言ったからか、ミサコはすごい剣幕で
「まだ私が話してるでしょう!!」
と金切り声をあげるのです。顔は先生の方を向いたまま。
先生は怯えてるくせに、でもそれを隠すように平静を装ってミサコを見ます。
もう怖くて怖くて、揺れた掛け軸よりミサコが怖くて
私は小刻みに震えていました。震えないよう手をぎゅっと握り、爪が食い込んでるのも気付かないほど。
ほんの数十センチの距離に座っているミサコ、それが本当にミサコなのか、外身だけがミサコで、中身はもう違うものになっているんじゃないか、そう思ったのは私だけじゃなかったはず。
先生とチラリと交わした視線、それが同じことを語っていました。
掛け軸はいつの間にか止まっていました。
あんなに揺れていたのにピタリと。何もなかったかのように。
先生も話す言葉を忘れてしまったかのように、何も言えず座っているだけです。
先生は偽物だった。インチキだった。この人には何もできない。
私はミサコの話を遮らないよう、小さな声で「電話、借りますね」と言い、自分でタクシーを呼びました。
その部屋を出るときミサコを見ると、まるで一人で来たかのように、私なんか最初から居なかったかのように、チラリともこちらを見ず、ブツブツと話し続けるだけでした。
帰りのタクシーの中で時計を見ると、もうすぐ午前0時というところ。
そんなはずはないのに、後ろからミサコが追いかけてきそうで、何度も後部座席から後ろを振り返りました。
先に帰って悪いと思う余裕は、一ミリもありませんでした。
次の日から、ミサコは会社に出てきませんでした。
連絡も取れないようで、無断欠勤扱い、しばらくしたら退職届が送られてきたようでした。
本当に申し訳ないけど、私は少しホッとしました。
どんな顔して会おう、何か言われたらどう返そう、その前にまともに顔を見られるだろうか、そんなことばかり考えていましたので…。
このまま忘れよう、そう思いました。
ところが、ミサコが会社を辞めて数ヶ月経った頃でしょうか、電話がかかってきたのです。ミサコから。
もう何ヶ月も経っているのに、まるで先週のことのように
「この前はごめんねー」と。
はっきりと聞こえた言葉はそれだけ。
その後は、遊びに行こう、とか、食事に行こう、とか、そういうような意味のことを言っていました。
『そういうような意味』と言ったのは、ミサコが何を言っているのか、
本当は全然分からなかったから。
「あの先生」とか「また食事」とか、そういう単語は分かったので、何となく言ってる意味を想像しただけ、本当は全然違うことを言っていたのかもしれない。
ミサコが正しくは何を話しているのか、私には分からなかったのです。
そのままの意味、ただ分からなかったのです。
「ごめんね、今から出かけるから、また電話するね」
そう言って、私は電話を切りました。
ミサコはあのインチキ先生に何をされたのだろう。
きっと今も、自分は不幸という思考の中にいるんだろうな、そう思って少しだけ悲しくなりました。
それ以来、彼女から連絡が来ることはありませんでした。
もう30年近く前、娘だった頃のお話。
おしまい。
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